初任者が研究授業で「三年とうげ」を扱うならどこを見てもらうべきか。
「読解力」をつけるための教材
初任者で「三年とうげ」を初任者研修の研究授業に選ぶ人は多いかもしれない。
3年生の12月教材だから、4月から培ってきた指導力を見てもらうには丁度いい。
指導案を書く場合、まずは指導書に出ている指導計画に目を通すのが定石だろう。

冒頭の一文を読めば、「登場人物の行動や気持ち」を叙述を元に「とらえて」読み取らせる教材として配置されているということが分かる。
1,2時間目は音読学習に充てるとして、読解力が子どもたちにどれくらい身に付いたかを見てもらうのなら、3時間目か4時間目が妥当だろう。ただし、この指導計画に書かれてように「三年とうげのおもしろいところをノートに書きましょう。」なんて授業をやったら、十中八、九、つまらない授業になる。
この指導計画を書いた人は、おじいさんが三年とうげで何回も転がって寿命を延ばそうとする場面を「おもしろい」と考え、子どもたちもそこが面白いと言うはず。
「一度転ぶと三年生きるんだろ。」
「何度も転べば、ううんと長生きするんだよ。」
「わしの病気はもうなおった。」
こうしたトルトリやおじいさんのセリフが面白いところだと挙げるだろうと考えているのだろう。
だが、それをわざわざ3.4時間目に取り上げて発表させずとも、1,2時間目の音読指導をする中で容易に引き出すことができるし、それが自然な指導だと言うものだ。
「面白い」とか「面白くない」というのは、「個人的感想」であり、他の箇所を指摘した子がいたところで、「ああ、きみはそうなんだ。」で終了となる。「こっちの方が面白い」とか「いやこちらがもっと面白い」「そこは面白くない」と白黒付けてはっきりさせよう、という事ではない。
自分が面白いという所をちょっと勇気を出して発表すれば、みんなから「ああ、そうだよね。」「私も同じ」と認められ、追認されて良かったね、という授業にならざるを得ない。
さてこれは叙述に即して読解力を高めている授業と言えるのか?自分の思いや考えのもととなった文章表現を挙げただけで、その妥当性の検討がない文章をなぞっただけの授業としか言えないのではないか?
仲のいい友達の発表なら興味を持って耳を傾けるかもしれない。だがそれ以外の子の発表は、聞いてなくても何も困ったことは起こらない。そもそも面白い理由として示された叙述が「なるほど、ほんとに面白い」と思ってもらえるような妥当性をもっているかどうか判断するのは、相当難しい。ましてや4年生にそれを求めることは難しい。
仮に「あまり高くない、なだらかなとうげでした」という叙述が面白い箇所として挙げる子がいたとしても、「明らかにそこは『面白い』表現だとは言えない。」とわざわざ言う子は出てこない。(ちょっとおかしな所に反応するんだな、この子は…)位のことでスルーされてしまう。
だから「おもしろい」ところをノートに書き、「出来事や登場人物の行動や気持ち、考え方、言葉の使われ方や分の調子等の観点から内容をまとめる」などという課題で授業をやっても、叙述に即して読み解く「読解力」は育たない。
「叙述に即した読解力」を育てたいなら
ところが、
「よいながめは、ふもとから見たのか。三年とうげから見たのか?」
「おじいさんが腰を下ろして一息を入れながら、美しいながめにうっとりしていたのは、とうげのどのあたりか?
このような問いが教師(あるいはこども)から出されたなら、自分の考えを決め、その妥当性を示す叙述をさがし、考えをまとめざるを得なくなる。
おじいさんが隣村へ行き、その帰り道、峠を通って帰る途中に見た景色なのだから、
①頂上の手前
②峠の頂上
③頂上を過ぎて下った所
①、②、③で、おじいさんの目に見える景色は異なるはずだ。
(イ)自分の考えを選択し、根拠となる叙述を本文から抜き書きする。
(ロ)挙手により人数分布を確定させる。
(ハ)叙述をもとに、考えを発表する。
(二)互いの意見を戦わせる(指名なし討論)
このような授業ならば叙述を検討せざるを得ない。
指導書の指導展開とも全く違う。
だがこれまで指導書に書いてある指導計画や発問通りにやって、手応えのある反応が子供から返ってきていたか?
思った通りにならないのは、自分の授業の腕がないからなのか?
あるいは、「指導書通りにならないのは、自分だけでなく、他の先生もそうなんじゃないのか?」
様々な疑心暗鬼に囚われ、どうしていいのか分からなくなってくる。
だが、「これ、いいんじゃないか?おもしろそうだ」と思ったなら、やってみればいい。いい授業であれば、子供は「先生、今日の授業面白かった」と正直に答えを出してくれる。
追試してみるだけの価値ある発問だ、と感じたのなら、それを「研究授業」の場でやるかやらないか?
それはあなた次第だ。






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